虫歯は自然には治りません
正確には、本当に虫歯になりたての段階であればケア次第で治ることもありますが、少なくとも痛みを感じるほどの虫歯まで進行した場合は治療しない限り治りません。
風邪を引いた場合、ほんの軽い風邪なら病院で治療しなくても自然治癒力で回復します。しかし虫歯は治療しない限り治らないのです。
虫歯を治療しないとどうなるか
虫歯は自然に治らないのですから、治療しなければ虫歯の状態がずっと続きます。
しかしそれは「今の虫歯の状態が続く」という意味ではありません。治療しなければ虫歯は進行してどんどんひどくなり、最終的には歯が崩壊し大部分が失われます。
虫歯の原因菌は歯を完全に破壊した後血液の中に入り、血管を通じて脳や心臓にまわることで脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすことがあります。
歯の構造と虫歯の深さ
歯の再表層を構成するのがエナメル質です。人体で最も硬い組織で、咬み合わせの力や温度変化、細菌から歯の神経を守ります。神経構造がない為、エナメル質が虫歯になっても痛みを感じることはありません。
エナメル質内にとどまっている虫歯はごく初期であれば治療しないこともあります。
エナメル質の内側にある、歯の大部分を占めるのが象牙質(ぞうげしつ)です。エナメル質よりも柔らかく、象牙細管という管が走行しており、温度変化や虫歯による刺激を神経に伝えます。
そのため虫歯が象牙質に達するとしみたり、痛みとして感じます。
虫歯の進行度別の症状と治療の流れ
虫歯の進行度はC0〜C4の5段階で表されます。C0が虫歯の初期段階で、最も進行した段階がC4です。
【C0】歯の表面のエナメル質が溶け始めている状態
C0は歯の表面のエナメル質が溶け始めている状態(=脱灰(だっかい)です。穴はまだ空いていません。自覚症状がない為自分で見つけるのは難しく、歯科検診等で見つけてもらいこの段階で対処するのが理想です。
C0の段階では歯を削る必要がありません。主な治療法は正しいブラッシングや、歯を修復する力のある「フッ素」を塗布して虫歯の進行を防ぐなどとなります。
(関連記事:フッ素は歯を強くする。)
【C1】歯の表面のエナメル質が溶けて穴が空き始めている段階
C1はエナメル質が溶けて穴が空き始めている段階。ほとんど痛みを感じることはありませんが、時々甘いものなどがしみることもあります。
C1の治療は、虫歯部分を取り除いて「コンポジットレジン」と呼ばれるプラスチック樹脂を詰めて修復する(=コンポジットレジン修復)のが一般的です。麻酔を使う必要がなく治療も1回で終わります。
【C2】象牙質まで虫歯が進行している段階
C2は象牙質まで虫歯が進行している段階。神経の近くまで穴が空いているので、咬むと痛みを感じたり冷たいものがしみたりします。象牙質まで達した虫歯は進行が早いのですぐに治療する必要があります。
C2の治療はレジン修復か、より適応範囲が広い詰め物被せ物での修復(=インレー修復)が一般的です。虫歯を取り除いた後に形を形成し、模型上で歯科技工士が作った金属やセラミック等で修復します。
【C3】神経(歯髄)まで達し、かなり進行が進んでいる状態
C3は虫歯が神経(歯髄)にまで達した段階で、かなり進行している状態です。熱いものがしみたり、何もしていなくても激しい痛みを感じたりすることがあります。
「根管治療(こんかんちりょう)」と呼ばれる神経を取り除く治療が必要で神経をとり、根の内部を掃除します。
(関連記事:根管治療その1・神経をとる治療(抜髄) )
【C4】歯冠が虫歯によって失われている状態
C4は虫歯の最終段階。「歯冠(しかん)」と呼ばれる歯茎の外に出ている部分が虫歯によってほとんど失われている状態です。神経が死んでしまって痛みを感じなくなることがありますが、放置すると歯根に膿が溜まって強烈な痛みが生じる可能性があります。
C4の段階では治療で歯を修復するのが難しいので、抜歯になります。
当院の虫歯治療方針:”とにかく歯は抜かず・削らずに長く持たせたい”
虫歯治療は非常に細かい世界ですので、肉眼に頼って治療することは精度を落とすことにつながります。
歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)使用下ですと、肉眼では発見できなかった微小な患部の判別ができます。健康な歯を削らずに、痛みのない正確な治療を可能にするのが『精密虫歯治療』です。
削ってしまえば歯は元には戻りません。つまり、歯の寿命は短くなる一方です。
しかし、この『精密虫歯治療』を行うことにより歯の削る量が少ないため、痛みがなく歯の寿命を通常の治療より長く保たせる事ができます。
また、正確な治療が可能なので、詰め物や被せ物の精度が高まり長期に渡り、被せ物と歯を安定して維持する事が可能です。
当院の虫歯治療について詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてください。
(関連記事:虫歯治療)
国内にある約6,000台の歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)がある
マイクロスコープとは、歯科治療に用いる顕微鏡のことで、最大20倍程度まで患部を拡大して診ることができる装置です。
マイクロスコープは現在日本にある68,000件の歯科医院の中で10%の数である約6000台しか導入されていないそうです。当院では根管治療以外にも様々な場面で役立つことから外科手術や審美治療、歯周病治療などで積極的に使用しております。
マイクロスコープはどんな治療に有効なのか?
全ての治療はマイクロスコープを覗きながら行うことが出来ますが特に有効性を発揮する場面があります。
1:治療に入る前の診査・診断
虫歯治療を行う上で最も重要な診査・診断にマイクロスコープを用いることは非常に有効です。顕微鏡拡大下では歯科医師が得られる情報量が圧倒的に増えるからです。
歯のヒビ(マイクロクラック)や細い根管(神経の治療)など肉眼では絶対に見つからないものも明視下にできます。また虫歯の範囲なども正確に把握できるため、できるだけ残す、削らない治療が可能になります。
2:根管治療
根管治療(歯の神経の治療)は非常に難易度が高く、場当たり的な治療になっていた歴史があります。神経の管(根管)の数や曲がり具合は十人十色で、経験と勘だけでは攻略不能なのです。さらに根管の中は暗く光が届きにくいのですがマイクロスコープはLEDの強力なライトで術野を照らしてくれます。
これにより見つからなかった根管を探し出すことが可能になり、根管内の感染源になりうるものを実際に見ながら除去できることからも非常に治療成績が良くなりました。
3:コンポジットレジン修復(ダイレクトボンディング)
コンポジットレジン修復のクオリティは術者の技術にかなり左右されてしまいますが、マイクロスコープを用いることでより複雑な形態や色彩の再現が可能になります。
4:詰め物・被せ物の治療(審美修復)
歯の形を整える際にマイクロスコープを使い、ヘリが綺麗に整えてあると適合が良くなり長持ちします。またできてきた詰め物や被せ物を実際に装着する際もそのフィットを拡大視野で確認することができます。
5:動画の録画、拡大視野の撮影
マイクロスコープは治療の様子を精細な動画で記録することが可能です。患者さんにご自分の歯がどんな状態だったのか、どんな治療を行ったのかを確認してもらうことができます。
積極的に神経を残す
虫歯が大きく進行し、神経を取った歯でも、咬む感覚は変わらないため神経を取る前と同じように食事をすることができます。しかし、歯の神経の有無は歯の寿命を大きく左右します。
神経を取ってしまうと歯は脆くなり、割れたり折れたりする可能性が高くなります。特に根の部分が折れてしまうと抜歯になる可能性が非常に高いため、神経を残す治療を行うことが重要です。
当院では、極力歯の神経を残し、歯の寿命を延ばすために「MTAセメント」を用いた歯髄(=歯の神経)温存療法を行っています。
(関連記事:MTAセメントで神経を残す。)
MTAセメントとは
MTAセメントはさまざまな特性があります。まず1つめは強アルカリ性で殺菌力が高い点です。多くの細菌はpH9.5程度で死滅すると言われていますが、MTAセメントはそれよりも強いpH12.5を示す強アルカリ性です。
MTAセメントは硬化する際に膨張する性質があるため、スペースを隙間なく緊密に埋めることが可能です。この性質は、細菌の侵入防止に役立っています。さらに、MTAセメントは人間の身体の相性を表す生体親和性が高く、細胞毒性が非常に低いと言われています。
また、一般的なセメント(接着剤や詰め物)は水分があると接着力が低下しますが、MTAセメントは親水性(水と馴染みやすい性質)があるため、血液や組織液の排除が難しい部分にも使用可能です。MTAセメントによる治療は保険適用外となります。
虫歯治療のQ&A
Q:金属のつめ物をした後歯がしみる感じがするのですが?
A:神経を生かしたまま、つめ物・かぶせ物をしますと、冷たい水がしみる、強くかむと痛いといった不快症状が出ることがあります。
しかし多くの場合、歯の中で第2象牙質という構造物が作られ、その症状は徐々に軽減していきますので安心してください。
症状は個人差、また虫歯の深さによって1週間で改善されるケースもあれば、6か月以上かかる場合もあります。何もしなくてズキズキ痛むといった場合は神経を取ったほうがよいので我慢しないでください。
Q:1日3回歯磨きをしていれば虫歯にならない?
A:そうとは限りません。歯磨きにおいて大切なのは「回数」ではなく「精密さ」で、「歯を磨いている」と「歯が磨けている」は違います。
歯間ブラシやデンタルフロス、タフトブラシを使う、患者様一人一人に合ったブラッシング指導を受けるなどして歯磨きの技術を高めましょう。
Q:歯が痛くなってもすぐ歯科医院に言えば虫歯は簡単に治る?
A:すぐ歯科医院に行くのは行動としては正しいですが、タイミングとしては遅いです。
上記で説明しているように、初期の虫歯は痛みを感じないため、歯が痛むということは既に虫歯が大きく進行しているということになります。初期の虫歯のような全く歯を削らず治すのは難しい段階であると推測できます。
Q:歯の神経を取ったのに歯が痛い!なぜ?
A:歯の神経をとったにもかかわらず、治療後後強くかんだり、指でコンコンたたいたりすると痛みを覚えたりすることがあります。これは一連の処置によってできた傷が原因です。しばらくは患歯を安静にしてあげてください。痛みは必ずおさまります。
神経の治療は終了まで回数がかかります。虫歯の深さや神経の本数、神経の形態の複雑さによっても変わり、個人差があります。気になることがございましたら主治医までご相談ください。
(関連記事:神経を抜いた歯に再び痛みを感じる理由とは? )