歯周病の原因となる歯周病菌は口腔内常在菌と言われており、ほとんどの日本人がお口の中に歯周病菌を持っています。しかし、歯周病を発症する人としない人がいます。それはどうしてでしょうか?今回は歯周病の原因とメカニズムを詳しく解説していきます。
歯周病になる人、ならない人
歯周病菌は口腔内常在菌ですが、まれに歯周病菌を持っていないという方もいらっしゃいます。そのような方は歯周病になる心配はありませんが、非常に稀有と言わざるを得ないでしょう。しかし、歯周病菌を持っていても、発症しない方もいらっしゃいます。ここでポイントになるのが、「免疫反応」です。
歯周病菌が増殖すると、免疫反応によって、身体は歯周病菌を排除しようとします。歯磨きがきちんとできていれば、歯周病菌を排除して元通りになるのですが、生体に大きなダメージを与える菌がいたり、残っている汚れが多いなどの要因があると、歯周組織に細菌が定着してしまいます。すると、身体の免疫システムが細菌の付着した歯を異物と見なし、排除しようと歯を支える歯周組織を破壊してしまうのです。
このように、免疫が過剰になって歯周組織が破壊されてしまった状態が歯周病です。この免疫反応のバランスが取れているかどうか、が歯周病になるかならないかの分かれ道と言えるでしょう。
歯周病菌の特徴
歯周病菌にはいくつかの特徴があり、それを知ることで効率的に歯周病を予防できると考えられます。3つの大きな特徴について、順番にみていきましょう。
■酸素が嫌いな嫌気性菌
細菌の分け方にはいくつかの種類がありますが、生育に関する大きな分類の一つが酸素を必要とするかどうかです。生きていくのに酸素を必要とするものを好気性菌、酸素を必要としないものを嫌気性菌といい、嫌気性菌の中には酸素に触れるだけで死滅してしまう偏性嫌気性菌と酸素があっても生きていける通性嫌気性菌に分けられます。歯周病の代表格はみな偏性嫌気性菌であるため、歯の表面では人間の呼吸によって死滅してしまうのです。そのため、歯周病菌は、空気がない歯と歯肉の境目の歯肉溝と呼ばれる部分に生息しています。
歯肉溝の深さは2〜3mm程度で、歯周病菌にとって住み良い環境とはいえません。しかし、歯磨きを怠ったり、免疫力とのバランスが崩れて歯肉が腫れたり歯周病によって歯根膜(歯と骨をつなぐ靭帯のような組織)や歯槽骨(歯を支える骨)などが破壊されてしまうと深くなります。これが歯周ポケットです。歯周ポケットの中は空気が入り込まない環境であるため、歯周病菌が増殖しやすくなります。
ここで免疫のバランスが崩れたり、歯周病菌のもつ毒素などによって歯周組織が破壊されると、歯周病がどんどん進行してしまうのです。20代くらいまでは発症しても歯肉炎という軽い症状で済むことが多いのですが、年齢が上がるにつれて進行しやすくなります。自覚症状が少なく、一度骨が溶け始めると、急激に悪化してしまうため、歯周病は恐ろしい病気だと言われているのです。
■プラークを放置すると自力では取れない歯石に
歯周病菌は生体の免疫から身を守るためにバイオフィルムという膜を作ります。この細菌の塊を表す言葉はいくつかあり、バイオフィルムは歯垢やプラークと呼ばれるものと同じです。プラークは細菌の集合体で、粘着性のある物質を分泌して歯に付着します。歯は、乳歯から生え変わる時以外では、虫歯や歯周病で失われるまで存在し続けるため、日々の代謝で表面がどんどん入れ替わる歯肉や舌の表面に比べて細菌にとっては定着しやすいのです。
細菌の塊であるプラークは、食べ物の磨き残しなどを栄養源としているため、磨き残しが多いとプラークが増殖してしまいます。プラークが長期間放置され、カルシウムなどを取り込んで硬くなったものが歯石です。歯石は歯ブラシで取ることはできず、表面がざらざらしているため、より多くの菌が付着しやすい足場を作ってしまいます。歯石になると歯科医院で専用の器具を使わなければ除去することはできません。
歯石の付着を防ぐには、プラークの定着を防ぐこと、そのためには適切な歯磨きを実践することが重要です。しかし、ご自身のお口に合った適切な歯磨きができている方はそう多くはありません。定期検診などでお口の状態に合わせた歯磨き方法を知り、付着してしまった歯石を定期的に除去することが大切です。
■完全に除去することができない
歯周病菌は常在菌としてお口の中に存在し、完全に消滅させることはできません。しかし、磨き残しを減らす、歯周病治療を行って歯周ポケットをなくすなど、しっかりと細菌数をコントロールできれば、重症化を防ぐことは十分可能です。
お口の中には大量の菌がいて、人間にとって良い働きをする善玉菌、悪い影響のある悪玉菌、どちらでもない日和見菌に大別されます。この3種類の細菌はおおよその割合が決まっており、例えば悪玉菌が極端に減ってしまった場合は日和見菌が悪玉菌化するとも言われています。つまり悪玉菌が極端に増えないよう、バランスを保つことがとても重要なのです。
歯周病と密接に関わる人間の免疫システム
人間の免疫の強さや反応性などは、2つの要素によって決まります。1つは先天的要素で、生まれつきの体質、遺伝的な素因です。これは変えることができないので、ご家族に歯周病の方が多い、という方は特に注意して歯周病にならないよう対処していくしかありません。
2つ目は生活習慣や環境的要因です。これは先天的要素と違い、自ら変えていくことができます。歯周病になりやすくなる生活習慣をご紹介しますので、該当するものがある方は、ぜひ改善してみてください。
■喫煙習慣
喫煙は歯周病リスクの代表的な要素です。タバコを吸う方は、歯周病のなりやすさが約4倍、進行速度は2倍にもなるというデータもあります。タバコに含まれるニコチンは、歯肉の血流を妨げるため、免疫システムがうまく働かなくなり、歯周病菌の増殖を助長します。
また、歯肉が貧血状態になりやすいため、歯周病が進行しても「歯茎から血が出る」という症状が少ないため発見が遅れ、手遅れになるケースが多々あり、さらには歯周病だけでなく、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を引き起こすとも言われているため、注意が必要です。タバコを止めるか、歯を失うか、二者択一といっても過言でないほど、重要なファクターです。
■食生活
お口の中は食べ物などによって傷つきやすく、常に修復が行われている器官でもあります。そのため、修復に必要なビタミンやミネラルが不足すると、歯周病になりやすいと言われています。食事バランスに気をつけ、意識的に野菜を取り入れるよう心がけることで、健康的な歯肉を保つことができます。
■睡眠
質の良い十分な睡眠は、免疫力アップに繋がり、歯周病を防ぐ要素となっています。生活が不規則で、歯磨きの時間や睡眠時間が不定期だと、免疫力が低下して、歯周病を発症しやすくなると考えられます。仕事柄、睡眠時間が十分確保できないという方は、特にお口のメンテナンスが重要となります。
■ストレス
睡眠と並んで免疫力に大きな影響を及ぼすのがストレスです。特に、強いストレスを感じると、歯周病が悪化するというケースも数多く報告されています。ある程度のストレスは人間誰しも感じると思いますが、度を越すようなストレスがある場合は原因を解決することが、歯周病治療の近道です。
■肥満
痩せすぎもよくありませんが、肥満も歯周病を発症しやすい要素となります。過度な肥満は免疫力だけでなく、糖尿病などのリスクにもなってしまうため、適正体重から大きく外れないよう気をつけると良いでしょう。運動を取り入れると、肥満防止だけでなく、ストレス解消や免疫力向上にも繋がります。
■薬物・全身疾患の影響
ステロイドなど、特定の薬物は歯周病のリスクを上昇させると言われています。種類によっては唾液の分泌が少なくなり、歯周病だけでなく、虫歯のリスクが上昇することもあります。免疫力が低下するような疾患をお持ちの場合も、歯周病が悪化しやすくなります。そのような方は、より厳密な細菌のコントロールが必要だと考えられますが、逆にしっかりと対策を講じていれば、歯周病を防ぐことも可能です。
歯周病の予防方法
歯周病はプラークが歯肉の炎症を引き起こすことから始まります。歯磨きでプラークを取り除くことは、歯周病予防の基本です。プラークがつきやすい歯と歯の間、歯と歯肉の境目、かみ合せの部分を意識して磨きしましょう。
歯ブラシの毛先を歯にしっかり当て、1〜2本ずつ丁寧にブラッシングしてください。歯間ブラシやデンタルフロスを使うとさらに効果的です。
また歯ブラシは奥まで届きやすい毛先が小さめのものを選びましょう。毛先が硬いと歯ぐきを傷つける恐れがあるので、やわらかめがおすすめです。
歯石は自分で取ることができないので、定期的に歯科医院を受診してプロフェッショナルケアを受ける必要があります。プラークや歯石がつきにくくするために専用の器具を使って歯の表面をつるつるにするPMTCも有効です。正しい歯みがきの方法や歯ブラシの選び方も指導してもらいましょう。
歯周病はお口の中だけの問題ではありません
歯周病という病気は、お口の中だけでなく、全身への影響や全身からの影響が大きい疾患です。頑張って治療に通っていただいてもなかなか思うような治療効果が得られない、という場合は歯周病以外にも目を向けてみる必要があるかもしれません。健康診断などを受けていない場合は、知らず知らずのうちに糖尿病や高血圧などの疾患が発生していることも考えられます。
スカイ&ガーデンデンタルオフィスでは、お口の中だけでなく、現在治療中の疾患や、場合によっては血液検査の結果などをご持参いただいてトータルでの診療を心がけています。歯周病が心配な方や、治療中の疾患があって一般の歯科医院には通いづらいという方もぜひご相談ください。